136:武漢解放

2020年4月14日 あさひかわ新聞 北京あれこれNo.136

安倍首相が七都府県の緊急事態宣言を行った翌日の四月八日、湖北省武漢市の都市封鎖が解除された。当時武漢に残っていた九百万人は、七十六日間街の外へ出ることはもちろん、生活物資の購入のための外出すらままならなかった。感染者はもちろん、濃厚接触者など感染の疑いのある場合は、ドアの外へ出ることも許されなかった。

 現在までに、武漢市内だけで五万人が感染し二千五百余人が命を落としている。当初、感染者の急増と、病院に患者があふれて適切な医療も受けられないと発信する人が相次ぎ、人々はコロナウイルスを心から恐れた。政府の通達や指導はあったにせよ、なにより生死に関わる問題だと自ら判断し、危機感や恐怖感を抱いていたからこそ、長期にわたる自主隔離や、何ら補償もないなかでの店舗閉鎖や休業に従うことができたのだと思う。減税や社会保障費の一部減免などは後から出てきた話だし、隔離中の人にも給与などを払えという通達はあるが、企業や個人にいくら給付するとか、補填するという話は未だに聞かない。倒産する店舗や企業、失業する人は続出するだろう。しかし、命あっての今後の生活、命あっての経済だ。

 感染が収束に向かう今、彼らは知人友人の死を悼みつつも、武漢人総出で長い封鎖を乗り切ったという達成感に安堵している。彼らはとても大きな代償を払ったのだ。それを、彼らはウイルスを発生させ拡散したのだから自業自得だとか、被害を受けたから補償しろと責めることは、防御のチャンスはあったのに、あなた自身がその時に適切な措置を取らなかったのだから認識ある過失だと反論することと同様に虚しいことだ。

 ところで、武漢に足止めされた人のうち、北京に戻る予定の人数は統計で一万一千人いるそうだ。封鎖解除を機に、彼らが一斉に北京へ戻れるかというと、実はそう簡単でもない。

 空路の場合、武漢から北京へ飛ぶ直行便はまだ回復していない。他の都市経由で乗り継ぎするしかなく、乗り換えのたびに体温等の厳重なチェックを受けるだろう。そもそも、機内の密閉空間は誰もが避けたいので、現実的ではない。

 高速道路の場合、核酸増幅検査(NAT)の陰性証明書がなければ、通行検査をパスできない。ナビによると、北京まで渋滞なしで約十三時間、約千二百キロだ。そもそも、宿泊せずに移動するのは容易ではないし、宿泊地で安全観察目的で足止めされるリスクすらある。

 鉄路の場合、北京直通の高速鉄道は回復したものの、乗車率は五十%に抑えられ、北京で下車できるのは毎日千人までに制限されている。千枚限定の北京行きチケットだが、七日以内にNATを受けて陰性証明書がなければ購入もできない。購入できても、駅構内への立ち入りや列車内など、至る所で本人確認や体温検査などのチェックを受ける。北京に到着しても、専用のエリア別バスで送り届けられ、自由行動はできない。居住団地に到着後は、担当者に監督義務が引き継がれ、そこで新たに十四日間の完全隔離が始まる。居住先が寮などで完全隔離ができない場合は、指定の隔離ホテル行きとなるが、滞在費用は自己負担だ。感染が確認されれば公費で治療となるが、それまでは自費なのだ。十四日後に再度NAT検査を受け、陰性が確認されてはじめて外へ出ることが許される。

 このように、武漢が解放されたからといって、直ぐに以前のような自由行動ができるわけではない。北京でも、街中に人の流れが戻り、営業を再開する商店やレストランが益々増えてはいるが、政府の監視とコントロールは一向に緩む気配がない。一部の学校ではオンライン授業が始まっているものの、校舎や敷地内へは立ち入りは依然禁止のままだ。

 それに比べて、いまだに日本全体の危機感は薄すぎると感じる。特に旭川は今のところ集団感染も報告されていないようだし、自分は大丈夫だと思う人が過半数なのではないだろうか。何もしなくても今のままで本当に大丈夫かもしれないし、それがベストではあるが、外部から人の流入がある以上、感染拡大リスクは確実に存在している。

 実際のところ、せめて空港と駅に体温測定器を設置できないものか?発熱している人を水際で発見できれば、本人の早期治療のきっかけにもなるし、市民の安全と健康を守る助けになるはずだ。市街へ通じる全ての道路のチェックは現実的でないとしても、コントロール可能な空港と駅ですら無防備のままでいるのは、リスク管理の意識と、想像力が欠如していると思えてならない。

 世界では百五十万人が感染し、死者は十万人に及ぶ勢いで、先が見えない状態だ。とうとう、コロナは環境破壊を止められない人類の動きを止めて地球を再生させるために、地球が自救モードへ入ったサインだという人も出てきた。デマや陰謀論が飛び交い、終末論まで出てきたが、自宅でじっくり家族と過ごしたり、生死や人生を真剣に考えるチャンスとなったたことで、多くの人の価値観や習慣を変化させたことは確かなようだ。

投稿者:

nanben

北海道旭川市出身、北京在住18年、中国在住22年。